研究室概要

糖鎖とは

 生物の発生過程や細胞の癌化において、細胞表面の糖タンパク質や糖脂質上の糖鎖構造は顕著な変化を示します。翻訳されたタンパク質や脂質は、細胞内のゴルジ装置で糖転移酵素により順次糖を付加されます。様々な糖鎖修飾を受けた後、分泌小胞に乗り細胞外へ分泌されたり、細胞膜上に提示されたりします。現在、細胞表面のタンパク質の多くが、糖鎖の修飾を受けた糖タンパク質だといわれています。細胞間の情報伝達においては、提示された糖鎖を相手方の細胞表面にあるレクチン(糖鎖を認識するタンパク質)が認識して細胞内へ情報を伝達すると考えられています。また、細胞表面の糖タンパク質が様々な栄養因子やサイトカインの安定化や局在に関わっていること、共受容体として働くことも報告されています。さらには、受容体自身の糖鎖修飾がシグナルを制御する例も明らかにされてきています。このため、糖鎖は、発生、免疫、感染、疾病などの様々な生物現象に深く関わっています。

これまでの研究とこれから

ある種の筋ジストロフィーでは、O-Man型糖鎖が異常であり、これを合成するO-Man転移酵素が、その筋ジストロフィーの患者では変異により不活性化していることがわかってきました。私達は、この遺伝子のショウジョウバエ変異体で筋肉が欠損することや筋芽細胞のアポトーシスが亢進することを見出し、この遺伝子が筋肉の発生に不可欠であることを明らかにしました。この他にも、ショウジョウバエとヒトで共通するムチン型の糖鎖構造が、ショウジョウバエの造血幹細胞の維持に必要なことも明らかにしました。一方、癌細胞では、糖鎖構造が変化し、糖鎖は腫瘍マーカーとしても使われています。さらに、私達は、網羅的スクリーニングから、『ES細胞の自己再性能・多能性維持に糖鎖が関与する』ことを世界に先駆けて明らかにしてきました。この様な研究から、ヒトの個体発生や疾病においても糖鎖が重要な役割を果していることは明らかだと考えられます。実際、糖鎖不全に起因する様々な遺伝性疾患が見つかってきています。

  ヒトを始めとする様々な生物のゲノム配列が得られ、その情報をもとにプロテオーム解析、メタボローム解析などが行われています。リン酸化に並ぶ、主な翻訳後修飾が糖鎖修飾です。私達は、ショウジョウバエやES細胞を用いてこれまでに行った網羅的機能検索の情報を基に、幹細胞、発生分化、神経、遺伝性疾患を中心に、糖鎖の役割を明らかにしていきたいと考えています。これまでのタンパク質の解析からは不明であったことが、実は糖鎖に由来しているかもしれません。